距離は杞憂モーリス完勝 香港でのラストランは馬券を買って応援を

佐藤直文 レース回顧
天皇賞(秋)

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王者の走りでモーリスが国内ラストランを飾る

 最内1番の絶好枠を引いたエイシンヒカリがハナを切る展開は大方の予想通りだったが、前半3ハロンが36秒9、中間点でも60秒8というスローな流れになったのは少々予想外であった。昨年は脚を溜める競馬で持ち味を生かせなかったエイシンヒカリが、今年はガンガン飛ばして後続に脚を使わせるのでは、と思っていた人も多いだろう。ただ、今日のエイシンは、馬場入りの際に少し暴れた以外は、パドックや返し馬でも“こんな馬だったっけ”と思わせるほど、やけに大人しかった。これまでは気性難に苦しまされてきた馬だが、折り合い重視で飛ばさなかったのではなく、飛ばせなかったのだろう。

 結果的にスローの瞬発力勝負となった中で、モーリスは課題のスタートを決め、絶好のポジションに収まり、追い出しのタイミングも含めて完璧な競馬であった。マイラーが能力でこなして勝つ例は過去にもあったが、モーリスに限って言えば中距離でも問題なく強かったものであり、1分59秒1の走破タイムは過去10年で2番目に遅いものとはいえ、時計云々ではなく王者の走りを見せ付けたと言える。次走は香港で引退ということで、国内での雄姿は残念ながらこれが最後であるが、ラストランは馬券を買ってしっかりと応援したい。

モーリス

2000mでもその実力をまざまざと見せつけたモーリス(撮影:日刊ゲンダイ)

 2着リアルスティールは、中団で我慢が利いて、自分の競馬に徹することができた。外枠での折り合いを危惧する向きもあったが、自分のリズムで走れるという点で内枠より良かったのかもしれない。毎日王冠をパスしてここに備えたことも、結果的には正解で、この馬なりに力を出し切れたように思う。ただ、次元の違う馬が前に1頭いただけだ。

 3着ステファノスもまた、自分の競馬に徹して、昨年同様のスローの瞬発力勝負で持ち味を生かし切ったもの。その昨年から着順こそ落としたが、上位2頭は昨年出走していなかった馬であり、この東京2000mの適性を改めて示したと言えよう。

 4着アンビシャスは、後方で脚を溜め、直線では勝負を賭けたイン狙いだったが、あそこから伸びる馬場ではなかった。展開ももっと流れて欲しかったところだが、気性の難しさがまだ残っている馬でもあり、そのあたりが解消されれば、来年こその期待を賭けてもいいはずだ。

 5着ロゴタイプは、流れに恵まれたとはいえ、直線で一旦は抜け出そうかという見せ場十分の内容。改めて、安田記念勝ちを単なるフロックと片付けることはできないと、思い知らされた。

 ルージュバックは、直線を向いて外のリアルに蓋をされる形となり、フルに力を発揮できたとは言い難いものの、今日の相手で“ヨーイドン”の競馬はキツく、2000mも心持ち長かったか。ラブリーデイは、大外枠で掛かってしまっての2番手追走に。それでも本来は昨年のような立ち回りができる馬だが、ここまで負けたのであればピークは超えているか。エイシンヒカリは、冒頭でも記したように本来の姿ではなく、完全に気合が不足していたように感じる。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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