“最高の騎乗”で田辺ロゴタイプが復活走 モーリスは自滅

佐藤直文 レース回顧
安田記念

平成初の逃げ切り決着 復活ロゴタイプが絶対王者を止める

 確たる逃げ馬が不在で、ある程度のスローな流れは想定できていた安田記念だが、よもやここまで遅くなるとは思わなかった。前半3ハロンの35秒0は、過去10年で不良馬場だった一昨年の35秒1に次ぐ遅さであり、しかもそこからもペースが上がらずに1000m通過が59秒1と、これまたスローの逃げ切り決着だった前日の500万特別よりも遅かった。その、逃げたロゴタイプがキレイに折り合っていたのに対し、モーリスイスラボニータリアルスティールといった好位勢が揃って掛かっていたことを考えれば、全く驚けない逃走劇だったと言える。ただ、好レースが続いていたこの春の東京GIが、最後にきて“凡戦”と言わざるを得ないレースになったのは少し残念である。

 とはいえ、ロゴタイプの勝利にケチを付ける気は毛頭ない。けっして押し出されたわけではなく、出して行ってハナを奪った作戦自体が正解で、その後のペース配分、そしてインをロスなくピッタリと回った田辺騎手の最高の騎乗ぶりであった。負けて強しの馬は数あれど、弱くて勝てる馬はいない。皐月賞以来、3年にわたって勝利のなかった馬の復活走には、心から拍手を贈りたい。

ロゴタイプ

絶妙の逃げで昨年の年度代表馬を封印したロゴタイプ(黄帽、撮影:日刊ゲンダイ)

 “絶対王者”モーリスの敗因は一目瞭然だろう。折り合いを欠いて持って行かれての2番手追走。そして4コーナーでは馬場のいい外目に進路を取ったことで、他馬もモーリスを目標に外へ行くことになり、結果的に、勝ち馬にプレッシャーがかからなかったと言える。あれだけ掛かっても2着を確保したのだし、臨戦過程を考えても力は示したと言えるのだろうが、無理に抑え込まずに行かせていたら、楽勝まであったように思う。出走表明が遅れたためか、過去に手綱を取ったジョッキーを確保できなかったことも敗因のひとつだろう。よもや、“誰が乗っても勝てる”と、陣営が判断したわけではないだろうが、田辺騎手の手綱捌きが素晴らしかっただけに、余計にそう思える。

 3着フィエロは、ルメール騎手が前日に骨折して急遽の乗り替わり。前走もデムーロ騎手の騎乗停止で変更を余儀なくされたあたり、つくづく運がない馬だ。ただ、ピンチヒッターの内田博騎手は、道中で馬の後ろに入れて巧く折り合っていた。惜しむらくはペース。メンバー最速の上がりを駆使しても届かなかったのは、仕方ないだろう。

 4着サトノアラジンも、後方でジックリと運んで自分の競馬ができていたが、これまた今日の流れではここまでが精一杯だった。先週のマカヒキと同じように、川田騎手が直線進路を探しつつというシーンもあったが、早目に前が開いていたとしても、勝つまでは厳しかったと思える。

 5着イスラボニータは、序盤で掛かって一旦は折り合ったものの、大外を回って進出する形となって最後まで脚がもたなかった。それでも2着との着差は僅かであり、これまたテンからしっかりと折り合って好位を運べていれば、チャンスはあったかもしれない。

 リアルスティールは、デビュー以来初めて掲示板を外しての惨敗となったが、あれだけ首を上げて掛かってしまっては、どうしようもなかった。今後は再び中~長距離にシフトするプランもあるようだが、人馬ともに折り合い面の課題をクリアしなければ、活躍も望めないだろう。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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