出遅れも極悪馬場も関係なし これぞ王者の走りだキタサンブラック

佐藤直文 レース回顧
天皇賞(秋)

騎手の判断力と馬の精神力 武豊キタサンブラック

 歴史的な道悪での施行となった先週の菊花賞から一週間後、今度は東京で同じ状況になるとは夢にも思わなかった。秋の天皇賞が2000mとなった1984年以降、最も時計のかかる決着となっていたのは、同じ不良馬場だった91年のプレクラスニーの2分3秒9。それより4秒以上も遅い2分8秒3というタイムは、先週も書いたが不良のレベルが違っていたということだろう。ちなみに、東京2100mダートのレコードは2分6秒7であり、ダート並みに時計がかかる、というレベルもはるかに超えている馬場だった。もちろん、道悪適性が問われる状況だったが、それ以上に要求されるのが馬の精神力の強さだったろう。加えて、鞍上の判断力も要求されたことは、言うまでもない。

 キタサンブラックは、正面からのレース映像ではわかりにくかったが、完全に出遅れて、序盤は完全にいつもとは違う形で序盤を運ばざるを得なかったもの。しかし、3コーナー手前からインをスルスルと進出し、4コーナーではいつの間にか2番手に上がっていた。一見するとマジックのようだが、これは出遅れを冷静に対応した武豊騎手の判断力の高さゆえであり、早目先頭から後続の追撃を凌ぎ切ったあたり、道悪適性の高さと強い精神力も備えた王者の走りだったと言える。先を見据えた形ではなく、ラスト3戦を全部勝ちに行くべく仕上げた陣営も立派の一言だが、あとは中3週で迎えるジャパンCへ向けて、どうケアしていくかだろう。

キタサンブラック

王者の走りでGI6勝目をあげたキタサンブラック(青帽)(撮影:日刊ゲンダイ)

 2着サトノクラウンは、外を回る馬が多かった中で、これまた内目をロスなく立ち回る理想的な競馬ができたが、今日のところは勝ち馬を褒めるしかない。道悪もこれまでの実績が示す通り、相当な鬼の部類だろう。

 3着レインボーラインも、相当な道悪巧者と思える伸びを見せた。本来、2000mは距離不足と思える馬だが、スタミナを要求される競馬となったことで好走できたと言える。

 4着リアルスティールは、内枠もあってか好位で運ぶ形となったが、けっして得意とは思えない馬場を考えれば、よく走っている。たとえ負けたとしても、良馬場ならここまで離されることもなかったろう。

 5着マカヒキは、後方でジックリ脚を溜めての直線勝負だったが、最後までしっかりと伸びて復調の兆しは見せていた。良馬場で同じ競馬ができるなら、完全復活もそう遠くはないはずだ。

 ソウルスターリングは、中団からではあったが自分の競馬はできていたように思う。ただ、大トビで今日の馬場は明らかにマイナスな馬。むしろ、3歳牝馬にとっては過酷な条件でも大きくは崩れなかったあたり、力は示したと言えるだろう。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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