【菊花賞回顧】驚がくの勝利は「そっくり能力の差」 タスティエーラとソールオリエンスの間にも“力の差”

佐藤直文 レース回顧
菊花賞

春の二強も影さえ踏めず ドゥレッツァが変幻自在に菊を制す

 3000mの長丁場で、大外枠から距離のロスを抑えて運びたいのなら、最善策はスタートで後方へ下げてインに潜り込むパターンだ。脚質にもよるし、勝負どころでは再び外へ持ち出さねばならいとはいえ、リスクは少ない。もう一方で、スタートから出して行って先行する策もある。ただ、これまた脚質的な問題や、道中での折り合い面を考えるとより大きなリスクが生じる。後者のパターンで先行どころか逃げの手に出て、道中で一旦はハナを譲った上で、直線で再加速しての完勝劇。一ファンだった時代も含めて30回以上も菊花賞を見てきたが、こんな勝ち方は初めて見た。

 そのドゥレッツァ。けっして逃げる作戦ではなかったろうが、馬の行く気に任せてハナを取り切ったルメール騎手の判断力には舌を巻いた。イチかバチかの手を打てる伏兵馬ならまだしも、上位人気の一角を担う馬でこんなことはそう簡単にできるものではない。ただ、ハナに立ってからはピタリと折り合ってペースを落ち着かせたように、馬に対する操縦性の高さへの信頼があったからこそできた芸当だろう。道中は十分に息を入れて、後続2頭に一旦は先を譲りながら、使った上がりはメンバー最速。春の二冠馬に決定的な差を付けてのゴールは、そっくり能力の差だったと言えるかもしれない。

ドゥレッツァ

未勝利戦からの5連勝でラスト1冠を手にしたドゥレッツァ

 2着タスティエーラは、馬群の外目を回る形だったとはいえ、大きな不利もなくスムーズに前を捌いて力を出し切った。当面のライバルだった皐月賞馬にもダービー以上の差を付けており、これで負けたのなら相手が悪かったと言えるだろう。

 3着ソールオリエンスは、マークしていた2着馬よりもさらに外を回るロスがあったとはいえ、直線では伸び負けした形。皐月とダービーは分け合った両馬だが、これが本来の力の差かもしれない。

 4着リビアングラスは、勝ち馬を交わして一旦は先頭に立ち、直線では早目に差し返されたものの、自分の競馬ができたことで最後まで渋太さを発揮できていた。

 5着サヴォーナは、2周目の向正面から長く脚を使っていた分、最後は苦しくなったが、前走からの上積みを十分に見せた内容だった。

 ハーツコンチェルトは、ダービーから着順を落として着差も広げられたが、ハーツクライ産駒だけに、まだこれからの馬かもしれない。サトノグランツは、2周目の下り坂でも行きっぷりが悪かったあたり、前走の反動が出たと見るべきだろう。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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