歴史に刻まれる逃走劇 天才のアシストでキタサンブラック

佐藤直文 レース回顧
ジャパンカップ

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1番人気でもスイスイ 武豊キタサンブラック

 これまでの35回の歴史で僅か2度しかなかった逃げ切り決着となったわけだが、過去の2頭はともに伏兵馬による快挙であった。このレースのみならず、マークの厳しくなる1番人気馬の逃げ切りは至難の業。たとえ見え見えの単騎逃げであっても、予想する立場として◎を打ち切れなかった理由もそこにある。馬の能力はもちろんのこと、鞍上の絶妙なペース配分なくして成し得なかった、あまりにも鮮やかな完勝劇であった。

 キタサンブラックにとって、運も味方に付けたのだとすれば、春の天皇賞を含めて過去3戦3勝の最内1番枠だったか。スタートをポンと決めて、スンナリと先手を奪う注文通りの形に持ち込めたあたりが勝利への第一関門だったように思えるが、実は凄かったのはこのあとである。武豊騎手は、あえて後続を引き離す形の逃げを選択。並ばれてプレッシャーを受けるのを避けることにより、後続もマークしずらい形を作ったのだ。しかも、他馬が仕掛け始める残り半マイルからは、ラップを11秒台に上げたことにより、その差もなかなか詰まらなかった。まさにお手本通りと言えるペース配分での逃げであったが、こんな形の競馬を鞍上で馬と相談しながらできるのは、まさに“天賦の才”だろう。もっとマークがキツくなるはずの有馬記念では、どんな競馬をしてくるのか。今から楽しみである。

キタサンブラック

鞍上の絶妙なペース配分で逃げ切り勝ちしたキタサンブラック(撮影:日刊ゲンダイ)

 サウンズオブアースは、中団より前で流れに乗って、直線では外から力強い伸びを見せた。改めて能力の高さを示したと言えるが、今日は勝ち馬の競馬であり、仕方のない2着だ。

 3着シュヴァルグランは、勝負どころでの反応が一息で、追われてからもフラフラするシーンがあった。ただ、ゴール板を過ぎてもまだ脚を伸ばしていたように、まだ完成途上とも思える現状でこれだけ走ったのは立派である。

 4着ゴールドアクターは、勝ち馬をマークする形で運びながら、前述したようにプレッシャーをかけるシーンはなかったもの。勝ち馬を楽に逃げさせた“戦犯”かもしれないが、どこかで勝負に行って欲しかった気がする。プラス8キロと少し重目の分、動けなかったのかもしれないが、この競馬で勝てると踏んでいたのであれば、鞍上の大舞台における経験不足と言えるだろう。

 5着リアルスティールは、逆に勝負に行っての先行策。勝つためには、これで正解と思える騎乗ぶりであったが、追われてひと伸び欠いたのは、先に行ったためではなく、2400mがやはり微妙に長いためと考えていい。

 レインボーラインは、レース序盤こそいいポジションで運べていたが、ペースが上がったところでついて行けなくなった印象。直線でもスペースを見つけるのに苦労したが、それでも上がりはメンバー最速で脚は見せ、スムーズに捌けていれば2着もあったか。結果6着でも先々に繋がる競馬はできたように思う。ディーマジェスティは、テンから行きっぷりが悪く、競馬に参加できず。乗り方云々の問題ではなかったような気がする。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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