なぜアーモンドアイは稀代の名馬に… 「おとなしい女の子」を支えたチームの結束
12月19日、中山競馬場でアーモンドアイの引退式が行われた。JRAは「ありがとうアーモンドアイ」と題した特設ページをホームページ内に作り、ファンから募ったメッセージをパドックの大型スクリーンに流して引退式に花を添えた。
(文・守屋貴光 競馬専門紙「優馬」)
「プチ引退式」と9つ星のゼッケン
競走馬としてのキャリアは約3年3ヵ月だったアーモンドアイだが、実は引退式の前に「プチ引退式」が美浦トレセンで行われていた。それはジャパンカップの勝利から4日後の12月3日(木)。アーモンドアイが美浦トレセンから退厩し、もうトレセンには戻ってこないのが明らかになっていた時だった。
朝の調教が終わり、人もまばらになった午前11時。国枝厩舎のアーモンドアイの馬房周りにだけ人が集まり出した。国枝師やその家族、スタッフの家族も集まり記念撮影などが始まったのだ。他にカメラマンも10人ほど、記者も同じ程度駆けつけてアーモンドアイの姿を見納めに来ており、総勢40人ほどが見送りに集まっていた。そこには、この日に届いた「GI・9勝」を示す、9つの星がついたゼッケンも到着。
ジャパンカップから「プチ引退式」までの間は、厩舎内での引き運動を数十分やるだけで調教コースに出ることもなかったので、そのゼッケンを同馬の背に着けることはなかったが、国枝師や担当の根岸助手がそれを手に持ちアーモンドアイと記念撮影。「9つ星ゼッケン」を見るのはもちろん初めてだったので、自分も含め周りの口からも「おおぉっ・・・」と感嘆の声が漏れていた。
国枝師は「まるでお祭りみたいだな・・・」とつぶやいたが、他社の先輩記者は「いくら引退するからといって、トレセンから退厩するだけでこれだけ人が集まったのは初めて見た」と驚いていて、ファンのみならず皆から愛されているのが改めてよくわかった。
しかし、当のアーモンドアイはそんな想いも露知らず(?)で、おやつ代わりの青草を食んだり9つ星ゼッケンを齧ったりと落ち着き払った様子。スタッフの子供が近寄って声をかけたり、カメラやスマホのシャッターを無数に切られてもまったく動じることなく大人しい「女の子」で、これがあの爆発的な末脚を繰り出したり世界レコードで駆け抜けたのと同じ馬なのか!?と思うほど。

「プチ引退式」でもリラックスした様子で青草を食むアーモンドアイ
助手が語るアーモンドアイの「凄さ」
アーモンドアイのドバイ遠征にも帯同し、パートナーの1人である椎本助手に聞くと、「普段から、いつも本当におとなしい馬でしたね。競馬の時も秋華賞の時に少しうるさかったくらい。後はずっと落ち着いていました」とのことだった。
同助手にアーモンドアイとの思い出を聞くと、「たくさんありますけど…。でも印象に残っているのは、オークスのレース後に熱中症のような状態になって、秋華賞の後にも同じ症状が出たことですかね。口取りの後に、倒れてその場で寝そうになったんですよ。ひょっとしたら、筋肉の量が凄かったので普通の馬よりも熱が籠りやすかったのかもしれません。長くこの世界をやっていますがそんな馬は初めて見たし、本当に勉強になることばかりでした。とにかく、凄い馬でした。」
無敗の三冠馬2頭を退け、有終の美を飾ったジャパンカップのレース後でも、「全然ケロッとしていて、まるで『まだ走れるよ』と言っているみたいでした(笑)。全く疲れは見せていませんでしたよ。翌日も馬房を覗きに行きましたが、カイバもちゃんと食べていたし、いつもと変わらない様子でした」と同助手は語ってくれた。

ジャパンカップで2頭の無敗3冠馬を退けたアーモンドアイ(黒帽)
国枝師「1人になった時に寂しくなるかなぁ」
アーモンドアイが2019年に初めてドバイ遠征をし、海外GIを制覇して帰国した後から国枝師は「精神的にドッシリして大人になってきた」とよくコメントしてくれたが、オン・オフをきっちり切り替えられるからこそ、レースでの爆発力が生まれ、稀代の名馬に成り得たのだと改めて思った。
「プチ引退式」が行われている中、11時30分過ぎに厩舎に馬運車が到着し、根岸助手に引かれたアーモンドアイはものの1分足らずでスッスッと馬運車に乗り込み、視界から消えた。
国枝師は「無事トレセンでの仕事は終えて、これで一安心です。ホッとしているし、今度はこの馬の仔でまた競馬へ行きたい。今はみんないるからお祭りみたいだけど、1人になった時に寂しくなるかなぁ(笑)。とにかくオーナーに感謝。縁あってやらしてもらったが、牧場ともよく話し合っていつも良い状態で戻してもらったし、厩舎と牧場とひとつのチームとして一丸になってやれたから良い結果が出た」と話してくれた。

アーモンドアイの「9つ星ゼッケン」を掲げる国枝師
「チーム・アーモンドアイ」の結束
アーモンドアイの三冠達成後あたりだろうか。同馬がトレセンに入厩し、出走する週になるとスタッフの大半が「TEAM ALMOND EYE」とロゴの入った紺色のジャンパーを身に付け、アーモンドアイを中心に僚馬が隊列を組み、乗り運動をして調教コースに出ていた。
国枝師の言う通り、厩舎が1つになってアーモンドアイをサポートしていたのだ。芝GI・9勝、JRA歴代最多獲得賞金の金字塔は、決して1頭の傑出した馬がいたからではなく、牧場や厩舎、また獣医や装蹄師など、沢山の人の並々ならぬ努力とサポートがあったからに他ならない。
アーモンドアイがGIを勝った後、椎本助手におめでとうのラインを送ると決まって「アーモンドアイに関わった皆のサポートのおかげです。協力してくれている全ての人に感謝です」と返ってきた。国枝師の手腕や人柄が、馬だけではなく人も育てるのだと、次々と活躍馬を出す背景にはシッカリとした基盤が確かにあった。
アパパネ、アーモンドアイとJRAで複数の三冠馬を手掛けたのはまだ国枝師しかいないが、また近い将来、第2のアーモンドアイがこの厩舎から出現しても不思議はない。

関係者と多くの記者に見送られ美浦トレセンを去るアーモンドアイ
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