【日本ダービー回顧】“騎手力”と“厩舎力”でタスティエーラ 「実質超スロー」で問われた判断

佐藤直文 レース回顧
日本ダービー

上位4頭タイム差なしの大接戦を制し タスティエーラが世代の頂点へ

 前半1000m通過こそ60秒4の平均ペースだったが、その後にペースが淀んだにもかかわらず、逃げた馬が後続を大きく引き離す展開。2番手以下の馬たちにとっては明らかなスローペースであり、実際に上位を占めた馬たちがいずれも上がりが33秒台前半だったことを考えても、ポジション取りの差が結果を大きく左右したと言える。

 タスティエーラは、初動で好位4、5番手のポジションを取れたことが、第一の勝因だったか。しかも、完璧に折り合えていたことで、道中も全く無駄な動きがなかった。直線残り1ハロンで先頭に立ってからは思いのほか弾けず、ゴール前では猛追される形となったが、道中で右前の落鉄があったとのことで、皐月賞のように先頭に立って気を抜いたわけではなかっただろう。ジンクスを破ったテン乗りでのダービー制覇は、もちろんレーン騎手の騎乗ぶりもさることながら、短期間でウィークポイントを矯正してみせた厩舎の力があってこそだったか。

タスティエーラ

大接戦のゴール前を制したのは皐月賞2着馬のタスティエーラ(右緑帽)

 2着ソールオリエンスは、これまた勝ち馬を前に見る絶好のポジションだったが、完全な上がり勝負となった今日のペースは、皐月賞とは全く違うもの。それでもクビ差まで追い詰めたのは能力の証しと言えるだろう。

 3着ハーツコンチェルトは、出負けして序盤は後方からとなったが、向正面で徐々にポジションを上げて3コーナーでは好位に取り付いていた。松山騎手も巧く乗ったと言えるが、最後に差し切るまでには至らなかったのは、やはり道中で脚を使った分だったか。

 4着ベラジオオペラは、最内枠から無理にポジションを取りに行かず、中団で脚を溜める形。その分、ラストの伸び脚は目立っていたが、欲を言えばもう一列前で運びたかったところだ。

 5着ノッキングポイントは、上位馬とは瞬発力の差が出た形となったが、中団から直線でもジワジワと差を詰めた。一気の距離延長も克服したことで、今後の選択肢も広がることだろう。

 ファントムシーフは、良馬場での瞬発力勝負ではやはり厳しいハービンジャー産駒。序盤で好位を取れなかったのは枠順的にも仕方なかったが、ペースが緩んだところでもポジションを上げられなかったのは痛かったか。同じような序盤の後手からポジションを上げていったスキルヴィングは、気の毒な結果となってしまったが、同様の競馬だった3着馬との能力比較を考えても、アクシデントがなければ上位に絡んでいたと信じたい。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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