ミルコの魔術に後続は金縛り まさかの逃げ切りブラックスピネル

佐藤直文 レース回顧
東京新聞杯

体質強化に鞍上も自信 ブラックスピネル

 メンバーを見渡すと、ハナを主張しそうな馬が不在で、好位で運びたい馬が数頭、あとは差し・追込タイプという面々で、何が逃げてもスローペースというのは事前に予想できたことであった。しかしながら、前半1000mが62秒2という長距離戦並みの超スローになると予測できた人はそう多くなかっただろう。開幕週に組まれていた3鞍の芝マイル戦は、3歳未勝利戦を含めて全て前半1000mは59秒台のラップだったものであり、そこから2秒以上も遅いラップはちょっと異常である。そしてまた、そのラップを踏んで逃げた馬が何であったかも、多くの人が予想できなかった展開だったように思う。

 そのブラックスピネルだが、抜群のスタートを決めてハナを奪い、何も来ないとわかった時点でガクンとスピードを落とす、まさに“ミルコ・マジック”。そして、ラスト3ハロンを、10秒8-10秒9-11秒0で上がられては、後続は成す術がなくて当然だった。ただ、この中間もビシビシ追われて坂路で一番時計を叩き出すなど、体質が強化されたことも勝因のひとつだろう。馬の状態が良かったからこそ、鞍上も自信を持ってハナへ行くことができたのだろうし、けっして自分の競馬ではなかったが、完璧なレース運びだったと言える。

ブラックスピネル

超スロー逃げからの競馬で重賞初Vを飾ったブラックスピネル(黒帽)(撮影:日刊ゲンダイ)

 2着プロディガルサンは、菊花賞以来の久々でプラス22キロの馬体増だったが、けっして太くは見えず、気合乗りも良い絶好の仕上りであった。マイルを使うのはデビュー戦以来だったが、追走に苦しむ流れではなかったこともあってか、しっかりと対応して見せたあたりは能力の証。32秒0という究極の上がりをマークして届かなかったのは仕方なく、今後は脚元のケアもポイントとなるだろうが、選択肢が広がったことで楽しみが膨らむ一戦となった。

 3着エアスピネルは、前走のような掛かる面を見せず、このスローペースでもキッチリと折り合えた点では収穫はあったと言える。ただ、この先の安田記念を見据えたか、鞍上も無理に勝ちに行く競馬をしなかった印象を受け、評価を下げる敗戦とはならないだろう。

 4着は同着。まず、マイネルアウラートは、スタート直後こそ行く構えを見せたが、何が何でもというわけではなく、勝ち馬にハナを譲って2番手へ、というのは想定通り。ただ、瞬発力勝負では元より分が悪い馬だけに、ここまでペースが淀んだのは誤算だったろう。最後は止まったかに見えても、上がりは33秒0と、自身の力は出し切っていた。ストーミーシーは、準オープンからの格上挑戦であったが、決め手だけなら重賞でも通用する馬。捌きやすい少頭数が良かったのだろう。

 ヤングマンパワーは、外枠からスムーズに好位に収まったが、ポジションはいつも通りでも全く自分の競馬ができていなかったと言える。これまた瞬発力勝負でどうこうという馬ではなく、ペースが遅いとわかった時点でもっと積極的に動くべきではなかったか。

佐藤直文

筆者:


1963年、愛媛県生まれ。大学卒業後に入社し、当時(1馬)の看板評論家であった清水成駿に師事。坂路担当の調教班として馬の状態を自らの眼で確かめるとともに、独自の視点から発掘した穴馬を狙い撃つ予想スタイル。現、ラジオ日本、グリーンチャンネル解説者。

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